「最後の鍵」

抱えた膝に顔をうずめて
いつかきいたギターの音に耳を傾ける
たとえ空を見上げたところで
いまの僕にはどんなに澄んだ空も
愛おしく滲んだ景色にしかならないだろう

アスファルトに絶え間なく落ちる雨音は
あの日君が僕の背中を叩いていた音に似ているから
胸を焼いてしまうような熱い珈琲だって
この冷え切った心を癒すことなんてできない

ふたりの笑い声ばかり降り積もるこの部屋に
鈍色のラプソディを奏でよう
観客は誰もいないし
うかばれる明日なんてやってはこないけれど

それでも君を愛した証が残せるのなら

すがりつく物がなくなったこの部屋を
僕はひとり

思い出と共に鍵をかけてあとにする


さようなら
そのひとことを口にする勇気が
今の僕にはないから